管理人の読書BLOG。乱読傾向過多!!来るもの拒まず手当たり次第。内容責任取れません。
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蜜蜂と遠雷/恩田 陸

漸く話題作を読むことが出来た。

ピアノコンクールを題材にした本作、音楽の描写が素晴らしいと聞いていた通り、読んでいて音楽が聞きたくて聞きたくて仕方なくなった。

スター・ウォーズを連想させると云うプロコフィエフのコンチェルト3番

鍵盤を「弾く」のではなく「叩く」であると思わせるバルトークのソナタ80番

華やかなシューマンのノヴェレッテン

多幸感溢れた煌びやかなドビュッシーの喜びの島

屋外を感じさせるバルトークのピアノ協奏曲3番

『のだめカンタービレ』みたいに、掲載された音楽をCDにまとめて売ったら絶対売れると思うし、ぜひ聞きたい。聞いてからもう1回本作を読みたい。この本を読むと音楽の素晴らしさが直球で伝わってくる。

 

内容の方は、ピアノコンクールの参加者達が幾つかの予選から本選へと戦っていく様を描いもの。

突如現れた天才少年(養蜂を営む父と共に普段は放浪生活を送っている)、母の死をきっかけに表舞台から遠ざかった元・天才少女、著名な演奏家の弟子、普通の会社員となったものの最後に1回だけとしてコンクールの参加を決めた男性、等。

私としてはやはり、どんなに上手くともピアノの世界においては凡人としてしかなり得なかった彼に1番感情移入した。ピアノの音には人柄が出ると云う。明るくて優しいと云う彼の音楽がどんなものなのぜひ聞きたい。

『のだめカンタービレ』でもコンクールに参加する描写が出てくるが、漫画では表し切れない部分が小説では語られる。例えば参加者が変わる毎にその希望に応じて調律を行なう点や、次の参加者を舞台に送り出す際、どれだけの思いを込めて声をかけるか等。

審査員や、本選で参加者と共に演奏するオーケストラ、どの人達も音楽がものすごく好きでいろんな思いを込めて関わっているんだなと云うのがよく判った。

音楽にしろミュージカルにしろ、自分は好きな作品はあれど好きな奏者や役者はない。作品が主体であって、誰が演じても関係ないと思っていたのだが、本作でなんとなく判ってきた気がする。

★★★★★

コンテクスト・オブ・ザ・デッド/羽田 圭介

使い古された感のあるゾンビだが、描き方次第でここまで読ませられるんだと感心した。

昔ゾンビ映画がやたら流行った頃のお約束を逆手に取り、現代日本のゾンビパニックものに仕上げたのが本作。だか日本だと見るからにパニックと云ったふうにはならないんだな。混乱はしてもそれなりに秩序を保っているのは国民性の違いか時代の違いか。

ある日突然東京の街中で現れた1体のゾンビから始まった事件は、意外な原因が判明する。

つまりこれまでみたいな細菌兵器とか伝染病ではなく、主体性の有無と云う人間性の部分に原因があったと云うあたりが面白い……のだが、最後の方はちょっとだらだらした感じで読むのがしんどくなってきた。1番最初に真相に近付いた墓地組(?)がゾンビを御するのに失敗して破綻するあたりとか、ちょっとよく判らなかったし、北海道組の対決もよく判らなかった。封鎖されてるはずなのに何故本州から駆け付けられるんだ…。

読む方が疲れて途中ざー読みになったから理解し切れなかっただけだろか。

自分の意見ではなく、他人のレビューを見てから感想を書くのは云々の一文が結構耳に痛かったりして。

★★★★☆

明るい夜に出かけて/佐藤 多佳子

マラソンもの『一瞬の風になれ』がとても良かったものの、その後ご縁ないままだったのが、書評で名前を見かけて読んでみた。

主人公は大学休学中の男子学生。その一人称でずらずら綴られるのは、社会人歴ン十年にもなると結構読むのがツラい。

スマホの影響で短文を貫く書き方が今は主流になってるそうで、それはそれで雰囲気が伝わってくるが、結構なページ数なので文体に慣れて勢いに乗るまでに時間がかかった。

接触恐怖症(特に女性)の主人公が、1年限定の休学と一人暮らしの中で人と触れ合わずに済むコンビニの深夜バイトを始め、バイトの先輩や高校時代の腐れ縁の同級生、そして大ファンのラジオ番組の"職人"と知り合い渋々ながら付き合ううちに、何かがなんとなく変わっていく。

書かれているラジオ番組は実際のもので、著者もファンだと云うだけあって描写が超リアル。だからこそ主人公の個性(職人としてラジオ番組に投稿を重ね、好きな番組は録音して聞き返し、どの回に何が話されていたかもきっちり把握)が明確に伝わってくる。つまり作者さんもヘビーユーザーなんだろうか。

正直なところ、主人公の思考回路は自分にはちょっと軽薄に思えてあまり好きではない…と思ったのだが、偶然に次ぐ偶然で4人組が形成され(てしまっ)た後、つるむのを嫌がりながらもバイト先の先輩の演奏活動に関わったり、女子高生ラジオ職人の、学生としての生活に関わり始めたり、いつしかそこに居場所を得ていた主人公に、ほっと安心感を覚えたりした。

多分、大人になったらまた少しずつばらばらになったりするんだろうなと大人歴ン年ともなると思うのだが……。若いって良いなあ。

★★★☆☆

新 怖い絵/中野 京子
中野 京子
KADOKAWA/角川書店
(2016-07-30)

思ってた以上に面白かった。

後書きに"『怖い絵』のコンセプトは、端的に言えば絵を「読む」ということです。"とある通り、絵に描かれているものや描かれていない額の外のことを読み解いていく本。

私は美術館に行った時は、音声ガイドは借りずに展示品の札だけ読んで鑑賞する。

まっさらな状態で向き合い、感覚的に絵を捉えるべきと云うのが自分の美学だったのだけど、この本を読んで認識を改めた。

例えば『オフィーリア』は、モデルは画家の恋人で、実際に風呂桶にお湯を張って浮いた状態で描いたが、お湯が水になっても画家の集中力を切らせたくなくて我慢したので健康を害した、とか、長い期間同じ場所で風景を描いたので、描かれた花々は季節がバラバラだとか。

なくても十分絵の美しさは伝わるけれど、描かれた事情を知ることでより楽しめた。

本作はNHKのテレビ番組が元になっていたそうで、見ておけばよかったなとちょっぴり後悔。

★★★★★

夜行/森見 登美彦
森見 登美彦
小学館
(2016-10-25)

理屈派なせいか、不条理ものや明確な結論が出ない作品は苦手。

初めて読んだ著者の本『きつねのはなし』はだから良さが全然判らなかった。

今回の本はその系統なので、ちゃんと読めるか心配だったのだけれど、読み終わってみれば妙に引かれる作品であった。

10年前、鞍馬の火祭見物中に失踪した1人の女性。残された仲間達が再び鞍馬の火祭に集う。

その夜、各々が語る旅の話は、全てに銅板画家の連作『夜行』が絡んでいた。

作品に描かれている顔のない女性は、失踪した彼女なのか、それとも?

『夜行』と、誰も知らない対になっているという連作『曙光』。終わらない夜と1度きりの朝に"私"が紛れ込んでしまう下りはかなりドキドキした。

それにしても、最初に語られる『夜行―尾道』が印象強くて、今ものすごく尾道に行きたい。

『曙光』の世界で銅板画家が語った妻との出会いの場も尾道。

著者は京都を主な舞台に作品を書いているが、尾道にも京都と同じ空気を覚えてるのかも知れない。それくらい描写が細やか。

★★★★☆

大きな鳥にさらわれないよう/川上 弘美

所謂、文芸作品しか書かないと思ってたので、まさか著者がこんな作品を出すとは思わなくて驚いた。

人口減が非常に進んだ未来の地球を舞台にした連作集で、正確な背景の説明はないまま読み進めるうちに、じんわりと判ってくる。

人類滅亡の危機に瀕した人間が選んだのは、小さな集団を孤立化させ、強制的に進化を遂げさせると云うもの。集団を管理する"見守り"は、その役割に適した人物をクローンで生み出し、延々と当たらせる。そしてその上で人類を見守り育てる"母"達。

何百年、何千年の時の流れの先にある結末は滅びと判っているのに、そこに暮らす人々はいろいろなことを考え、日々を暮らしている。

この本は文庫化したらもう1度読み直したいなと思った。

★★★★★

リリース/古谷田 奈月
古谷田 奈月
光文社
(2016-10-18)

男女平等と云いつつ、レディースデイがあったり女性車両が出来たり、男尊女卑は確かにあるけど、行き過ぎるとこれは女尊男卑にならないか?と思ってたら、ついにこんな世界観を描いた作品が出てきた。強いて云うなら『大奥』のエッセンスがあるかも。

女性差別を撤廃した近未来社会(多分日本)では、女性は強くあるべきとの思想が進んで、旧来の女性らしさ(リボンが好きだったり、男性と付き合ったり)は否定され、逆に男性は清潔さや柔和さ等旧来の女性らしさが出世の条件になっている。同性同士のカップルが推奨され、女性同士でも子供が作れるように国管理の精子バンクが設立され、優秀な男性には国からドナーになるよう勧誘される。

主人公はこの世界ではイレギュラーな存在だ。

1人は親が女性同士でありながら、旧来の女性らしさに子供の頃から惹かれている人物。

もう1人は旧来の男性らしさを持って育ちながら、実の父親に引き取られて現代流行りの女性らしさや男性の恋人を持つことを強要される人物。

そもそも肉体の違いや脳の働きの違いを考えると、完全な平等なんて無理じゃないかと思うし、女性らしさ、男性らしさを好む人に別のものを押し付けるのは自由の侵害だと思う。

女性の自由の為にドナーバンクを立ち上げたはずの政府の暗部や、ドナーバンクへの報復の企て等、面白く読んだのだが、最後になって結局何がどうなったのか判らなくなり不完全燃焼な感じ。

★★★☆☆

みかづき/森 絵都

『カラフル』の作者、青春小説の書き手と云うイメージがあったので、教育に情熱を傾ける1人の女性の戦後から現在にかけて、さらにその後をこつこつと書き綴った本作のボリュームに大層びっくり。こんな作品を書いてしまうとは。

塾経営と云う珍しい題材に、丁度姪っ子が塾通いをしているのでとても興味深く読んだ。

戦中の教育に怒りを抱く主人公は、片腕となるパートナーを見出し、戦後まだ珍しい塾経営に乗り出した。高度成長期の追い風に乗り次々と生徒を獲得して塾の規模を拡大。一世を風靡するも、少子化のあおりを受け、一転規模の縮小を迫られることになる。

思想の違いによる夫(パートナー)との別離や、3人の娘達とのぎくしゃくした関係を経て、良かれ悪しかれ『子供達の為の教育』をただひたすら考えて彼女は進み続ける。そして物語は彼女の死後、その孫の世代にまで書き進んでいく。

これは…著者の代表作になる予感。

★★★★★

陸王/池井戸 潤
池井戸 潤
集英社
(2016-07-08)

100年の歴史を有する足袋製造会社"こはぜ屋"の社長が、先細りの経営に危機感を抱き新規事業に乗り出そうと考える。

彼が考え付いたのはランニングシューズ。

足袋製造のノウハウを活かし、軽くて足に良いシューズを作り出そうとプロジェクトを立ち上げるものの、靴底の素材探しや資金の調達、大手メーカーの妨害等難問が立ち塞がる。

なんと云うか…面白いんだけど、町の中小企業の社長が仲間達と立ち上がって夢を叶える、と云うパターンが続きすぎて少々食傷気味。起承転結がはっきりしていて読みやすいし面白いんだけど、悪役(ライバルメーカー)が悪役っぽかったり苦境を助けてくれる人物が現れたり、予定調和で筋書き通りに話が進んでいくので意外性がない。あまり本を読まない人にはオススメだけど、自分はもうちょっと驚きが欲しかったなあ。

★★★★☆

コンビニ人間/村田 沙耶香
村田 沙耶香
文藝春秋
(2016-07-27)

芥川賞受賞作。

コンビニでバイトを続ける30代独身女性が主人公で、著者もまたコンビニで働いている、と云う事前情報を得た上で読んだ。

当初、『真っ当な人間は正社員として働くものだ。結婚して子供を産むのが正常』と云う世間に、『バイト、独身、子供無し』の人間が抗う話なのだと思った。バブルが弾けてン十年。いったん正社員のレールから外れるとなかなか正社員になれないご時世、レールから外れてしまった人間がたまたまレールに乗ったままでいる人間に抵抗する物語と思ってたところが、読み出してすぐに想像してたのと違う筋なのに気付いて正直戸惑った。

普通と異常の差が何なのかを描く作品であったのは事実だが、歩む人生以前に、主人公の女性そのものがおかしい。有体に云えば共感能力が著しく欠けており、妹や親に指摘されて自分が『普通ではない』ことを知りはしても理解出来ない。

コンビニで働く30代独身女性が主人公、と云うより、共感能力が著しく欠けた精神的に問題のある女性(故にコンビニで働くのがやっとで結婚も出来ない)が主人公と云うのが正しい。こんな作品でも芥川賞に選ばれるんだと意外な感じがしたし、この作品を芥川賞作品だから読むべきと子供に勧めるのは難しいなあと思う。

面白いんだけど…コンビニバイトを辞めてからの壊れぶりは、かなりサスペンス色が強くてちょっと怖いくらい。

★★★★☆