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管理人の読書BLOG。乱読傾向過多!!来るもの拒まず手当たり次第。内容責任取れません。
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このトシになってくると、どうしても前にこんな感じのを読んだ、と云うのが増えてくる。
偉人の親兄弟が主人公の本なんて、何冊も読んでいる。
この本はとても面白かった。
宮沢賢治の父親の話、と云ってしまうのはちょっと違う。
明治大正、世間に現代に近い気配が漂い始める頃。
岩手県花巻で、父親が興した質屋を受け継いだ若き当主・宮沢政次郎とその家族の話だ。子供達のうちの1人はのちに本を出し、死後世間に認められた作家・宮沢賢治である。
父とはこういうものだと云う厳格さを保とうとする気持ちと、子供への愛情との板挟みになりながら、甘いと思いつつ子供達に手をかけ、金をかけしてしまう政次郎。自身は質屋に学問は不要と親に反対され、進学を諦めて質屋を継いだものの、息子や娘の進学の希望は、一度は反対しつつも結局叶えてしまうし、書籍や何やら無心されればつい送金してしまう。
ここで描かれる宮沢賢治は、イーハトーヴを舞台にしたのどかな作品を残し、農民の暮らしに寄り添った聖人ではない。父親のすねを齧りまくり、実現出来ない大きな夢(起業)を抱き、追い詰められれば宗教に走る、坊ちゃん育ちの青年だ。
それでも息子が可愛く、出来るだけのことをしてやりたいと願い、実行する。
作品が良いとつい作者を美化してしまうが、妹・トシの死を作品の為に利用したと政次郎が感じる場面が印象的だった。
★★★★★
都心の物件を購入あるいは賃貸しようとしている者の前に、ふいに現れるその名も不動さん。
宅建を取得し、建築物の造詣も深い彼女は、家の気持ちが判ると云う不思議な人物。部屋にまつわるちょっとた謎や疑問を解き明かしては一粒の涙をこぼして去っていく。
思い切りフィクションとは云え、実際の法律や手続きに基づいている為、丁度マンション購入や賃貸に興味があっていろいろ調べているところだったから、判りやすいノウハウ本として面白かった。
★★★☆☆
鳥類学者のエッセイ(?)。
この人を知ったのは本作が最初だが、結構前から著作がいろいろ出ていたらしい。
文体はヒネクレ系で、どくとるマンボウを懐かしく思い出した。キング張りに小ネタがちりばめられ、判らん人には判らんだろうが、年代的に自分はどんぴしゃなので判ってしまうあたり親近感。
内容は、タイトルが全てを物語っていて、ムツゴロウ的生き物賛歌なところは一切ない。もちろん動物に関わっていれば環境保護等の問題に直面したりするが、孤島に上陸する為の体力を懸命につけたり、国際会議で英会話力のなさに四苦八苦したりと、鳥類学者は一つの職業に過ぎないのだと認識させられた。
★★★★☆
激しく恩田陸『蜜蜂と遠雷』と被って感じた。
あちらはピアノ奏者を取り上げ、こちらはピアノの調律師を取り上げている。立ち位置は違っても、どちらもピアノの美しさを語っているのに違いはなく、読んでいるうちに無性にピアノの音に触れたくなってくる。
主人公は高校生の時、学校のピアノの調律に来た調律師を案内したのをきっかけに、卒業後、調律師を目指す。
ピアノが弾けなくても、超音感を持っていなくても、これだ!と思った主人公は迷いながらもこの音で本当にいいのかと自問自答しながらも地道な努力を重ねていく。
自分もピアノを習っていた頃、家に調律師が来たことがあったが、全幅の信頼を置いていて、調律してもらった音は間違いなく良い音と思っていた。
だが良い音と云うのはどういう音なのか。
人によって良いと思う音は違うし、同じピアノでも周囲に置かれた物によって反響が変わり、音も変わる。そう考えるとこれが絶対と云う基準がないものをよく仕上げるのはすごく勇気がいることだ。
猛烈にピアノを弾きたくなってきたが、現実を考えると、日中働いている人間がピアノを弾くのは隣近所への音を考えるとやっぱり難しい。電子ピアノになっちゃうよな、やっぱり…。
★★★★★
台湾出身の著者が台湾を舞台に書いている点に興味を惹かれて読んだ。
台湾は大好きな国だ。日本と1番近い国と思う。
本作は、連続少年殺人事件の犯人が捕まり、弁護士が面会に訪れる現在米国と、3人の少年が友情を深めていく1984年の台湾が交互に描かれる。その中で、連続殺人犯の正体が明らかになる。
見たことないけど『ミスティック・リバー』のようであるし、読感としてはキング『スタンド・バイ・ミー』にすごく近い。
丁度自分と同年代の作品なのだが、あの頃、こんなに荒っぽいコはいただろうか。当時の台湾は日本の戦後に近い雰囲気だ。ご近所同士がとても近くて、子供達は拳で語り合う。
たまたま作者のインタビューを新聞で読んだのだが、祖父が中国の国民党と共産党の戦いに関わった世代で、その戦いは非常に陰惨なものであったらしい。鬼畜日本とか云っているくらいなので、戦いと云っても耳を素通りしていたのだが、弾薬を節約する為に生き埋めにしたと云う記述に、国や民族関係なく、戦争はどんなものであっても野蛮で残酷なものなのだと思った。当時の人々を描きたかったがそれだけの筆力が自分にはないので、その子供世代を描き、戦争は背景にしたと云う言葉に、著者の誠実な人柄を感じた。
次の作品もぜひ読みたい。
★★★★★
いつかはこんな日が来るとは思っていたが、なんかこうやるせない気分になる。
著者は、名古屋近辺で自ら建てた木製の平屋に住む90才のご夫婦。
お湯の出ない台所で自分達で育てた野菜や果物を使って食事を作り、作れるものは自分達で作って生活している。
自然や植物が好きな自分としてはとても憧れる生活を実現されているお二人なのだが、トシがトシだけにいつかはと思っていたら、ついにご主人が亡くなられた。
御主人のいた頃、御主人が亡くなられた頃のインタビューを起こしたのが本作で、1番に気になっていたことが書かれていて安心した。一人になった奥様の元に娘さんが頻繁に訪れていること、数年後にはその家に娘さん一家が住む予定であること、御主人は普段通りの生活の中で、ちょっとベッドに横なっているうちに天に召されたこと。
前に読んだ本はご夫婦の送る日常生活に焦点が当たっていたのに対し、本作はインタビューだけあってもっと個人的なところに焦点が当たっていた。
入院先からいきなり「明日退院する」と云って退院したり、入院中朝から夕方まで奥さんに来てもらっていたり、意外とご主人、手がかかる人だったんだなと思ったし、奥さんは良いところ(造り酒屋)のお嬢さんで、結婚して夫に仕えるのが当然と云う人生観をお持ちだけど、ご主人のわがまま(?)をはいはいと受け入れて流すおおらかさや強さがある人だなと思ったし。
奥さんの穏やかな日々がこれからも続きますようにと心から願います。
★★★★★
先日恩田作品を読んだところだが、2冊目が届いたので引き続き。
途中で枝分かれした近未来の日本。
環境団体に破壊された原子力発電所の汚染で、関東一帯が隔離地帯となった。そこに住んでいた人々は死に、一部はゾンビとなって人を襲うようになる。
その場所で唯一、監視員として駐在する"ウルトラ・エイト"は、限りなく人に近いロボット達だ。その彼らの元に、国税庁から来たと云う若い一人の女性がやってくる。
隔離地帯に住むゾンビ達から税金を徴収出来るかどうか、調査に来たと云うのだが…?
前作に引き続き、この本も軽い。どんなふうに読めばいいのか戸惑う。環境問題を扱ってるのか、人とロボットの違いとは何か考えれば良いのか、謎解き冒険ものか、それとも??
タイトルも本文とどう繋がってるのかもよく判らない。太陽=原子力と云う意味か?
さらに装丁に煽り文句が刷られてるのに困惑。飄々とした国税庁の女性キャラと云い、冗談と思えば良いのか?
結末がどうなったのかもも一つよく判らない。消えたウルトラ・エイトの一人は結局どうなったのか、解決してないと思うんだけど。
このテーマなら、もっとシリアスに話を作って欲しかった。前作より読みやすいけど、狙ったジョーダン(昔懐かしのアイテムを持ち出し、これは何だろうと首を傾げる未来人)が鼻に付いてちょっとイライラした。
★☆☆☆☆
久し振りに故郷の沖縄に母に会いに帰った"ぼく"。
3日間母親に付き合うと約束して、家族の思い出の地を辿る。御嶽(うたき)や海、おかあさんとおとうさんと訪れた場所へと。
こんなに母親孝行な息子、30才くらいになって、長らく離れて暮らしてたとしても、いるか??と懐疑的になりつつも、ガイドをしている母親に連れられて観光地を見て回る話は、まだ1回しか沖縄に行ったことのない身としては楽しい。
母親の手作りの沖縄料理、綺麗な海の色、御嶽の神聖さ、良いな〜、また沖縄行きたいな〜、と思いながら読んでいたのだが、最後はまんまと著者に乗せられて、泣きたくなるのを懸命にこらえる羽目になった。
ああ、だからこんなにも"ぼく"はおかあさんにとても優しかったんだと納得。これは彼の後悔と感謝を込めた二人旅なのだ。
自分もいいトシだし、ある日突然、親しい身内と死に別れる可能性はとってもある。沖縄に移住(と云うか実家に帰った)彼に、ほろりとしつつも、どうせ帰るんならもっと早くすれば良かったのにと思いもする。
自分も後悔しないようにしないとなあ。
★★★★☆
このタイトルの訳判らなさ。
本作は短編集で、表題作が1番面白かった。
いきなり、死んでしまった後から始まる。主人公はもちろん浮遊霊。
数年前に妻に先立たれ、特に思い残すことはないと思いきや、町内会で海外旅行初体験の人だけ集まってアラン諸島に行くことになっていたのが心残りとなっていた次第。
幽霊と云えど浮遊しているだけなので、このまま浮遊していけばいつかはアラン諸島に行けるかもしれないが、延々大海原を浮遊していくのはツラいと主人公が取った道は、アラン諸島に行きそうな人を見つけて憑りつくこと。
そうして憑りつきながら辿り着いたのは、何故かブラジル。
憑りついた人の生活を覗きながら飄々と浮遊霊を続ける主人公の語りも面白いし、憑りついた青年の決意と行動によってほんわかする結末もまた良い。
『地獄』は死んで地獄に落ちた女性の話。地獄と云っても生前にそこまで悪いことをした訳でなく、物語を消費しすぎた罪(本の読みすぎとか)で結末を破られた本を何十冊も読まされるとか云う類の罰を延々与えられると云うもので、監督する鬼はやたら人間臭く、とにかく全体的に皆飄々してるのだ。
なんとなく著者の本は読まないで来たが、語り口が結構好きだなあと思った。
★★★☆☆
『蜜蜂と遠雷』を読んだばかりで続いてまた恩田作品。そしてものすごくがっかり。
『夜のピクニック』等の文芸作品もあるけれど、基本は不思議ものを書く著者であることは知っているが、読んでいて時間の無駄感が半端なく、結末だけちら読みして読了した。
各地の裂け目から現れる異形を人知れず斃す一族の連作集で、そんな設定は漫画やアニメでいろいろあるので、何故今更こんな話をって感じがする。一族や斃す敵について、本作は詳しく語らない。そう云うものだ、と云う流れで持っていくのかなあと判らないまま読んでいくのだが、主要登場人物がどうにも漫画チックで興ざめする。極端に無口な青年とか、頭を結い上げてカンザシで止めてる男性とか、耳の痛みで異形の気配を察知するとか、オカマチックな大阪人とか、好きな人は好きかも知れないがなんかイライラする。『蜜蜂と遠雷』に力を入れすぎて、軽い作品が書きたくなったのかなあ。装丁とタイトルは内容に偽り有って感じ。
☆☆☆☆☆