管理人の読書BLOG。乱読傾向過多!!来るもの拒まず手当たり次第。内容責任取れません。
<< May 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
新 怖い絵/中野 京子
中野 京子
KADOKAWA/角川書店
(2016-07-30)

思ってた以上に面白かった。

後書きに"『怖い絵』のコンセプトは、端的に言えば絵を「読む」ということです。"とある通り、絵に描かれているものや描かれていない額の外のことを読み解いていく本。

私は美術館に行った時は、音声ガイドは借りずに展示品の札だけ読んで鑑賞する。

まっさらな状態で向き合い、感覚的に絵を捉えるべきと云うのが自分の美学だったのだけど、この本を読んで認識を改めた。

例えば『オフィーリア』は、モデルは画家の恋人で、実際に風呂桶にお湯を張って浮いた状態で描いたが、お湯が水になっても画家の集中力を切らせたくなくて我慢したので健康を害した、とか、長い期間同じ場所で風景を描いたので、描かれた花々は季節がバラバラだとか。

なくても十分絵の美しさは伝わるけれど、描かれた事情を知ることでより楽しめた。

本作はNHKのテレビ番組が元になっていたそうで、見ておけばよかったなとちょっぴり後悔。

★★★★★

夜行/森見 登美彦
森見 登美彦
小学館
(2016-10-25)

理屈派なせいか、不条理ものや明確な結論が出ない作品は苦手。

初めて読んだ著者の本『きつねのはなし』はだから良さが全然判らなかった。

今回の本はその系統なので、ちゃんと読めるか心配だったのだけれど、読み終わってみれば妙に引かれる作品であった。

10年前、鞍馬の火祭見物中に失踪した1人の女性。残された仲間達が再び鞍馬の火祭に集う。

その夜、各々が語る旅の話は、全てに銅板画家の連作『夜行』が絡んでいた。

作品に描かれている顔のない女性は、失踪した彼女なのか、それとも?

『夜行』と、誰も知らない対になっているという連作『曙光』。終わらない夜と1度きりの朝に"私"が紛れ込んでしまう下りはかなりドキドキした。

それにしても、最初に語られる『夜行―尾道』が印象強くて、今ものすごく尾道に行きたい。

『曙光』の世界で銅板画家が語った妻との出会いの場も尾道。

著者は京都を主な舞台に作品を書いているが、尾道にも京都と同じ空気を覚えてるのかも知れない。それくらい描写が細やか。

★★★★☆

大きな鳥にさらわれないよう/川上 弘美

所謂、文芸作品しか書かないと思ってたので、まさか著者がこんな作品を出すとは思わなくて驚いた。

人口減が非常に進んだ未来の地球を舞台にした連作集で、正確な背景の説明はないまま読み進めるうちに、じんわりと判ってくる。

人類滅亡の危機に瀕した人間が選んだのは、小さな集団を孤立化させ、強制的に進化を遂げさせると云うもの。集団を管理する"見守り"は、その役割に適した人物をクローンで生み出し、延々と当たらせる。そしてその上で人類を見守り育てる"母"達。

何百年、何千年の時の流れの先にある結末は滅びと判っているのに、そこに暮らす人々はいろいろなことを考え、日々を暮らしている。

この本は文庫化したらもう1度読み直したいなと思った。

★★★★★

リリース/古谷田 奈月
古谷田 奈月
光文社
(2016-10-18)

男女平等と云いつつ、レディースデイがあったり女性車両が出来たり、男尊女卑は確かにあるけど、行き過ぎるとこれは女尊男卑にならないか?と思ってたら、ついにこんな世界観を描いた作品が出てきた。強いて云うなら『大奥』のエッセンスがあるかも。

女性差別を撤廃した近未来社会(多分日本)では、女性は強くあるべきとの思想が進んで、旧来の女性らしさ(リボンが好きだったり、男性と付き合ったり)は否定され、逆に男性は清潔さや柔和さ等旧来の女性らしさが出世の条件になっている。同性同士のカップルが推奨され、女性同士でも子供が作れるように国管理の精子バンクが設立され、優秀な男性には国からドナーになるよう勧誘される。

主人公はこの世界ではイレギュラーな存在だ。

1人は親が女性同士でありながら、旧来の女性らしさに子供の頃から惹かれている人物。

もう1人は旧来の男性らしさを持って育ちながら、実の父親に引き取られて現代流行りの女性らしさや男性の恋人を持つことを強要される人物。

そもそも肉体の違いや脳の働きの違いを考えると、完全な平等なんて無理じゃないかと思うし、女性らしさ、男性らしさを好む人に別のものを押し付けるのは自由の侵害だと思う。

女性の自由の為にドナーバンクを立ち上げたはずの政府の暗部や、ドナーバンクへの報復の企て等、面白く読んだのだが、最後になって結局何がどうなったのか判らなくなり不完全燃焼な感じ。

★★★☆☆

みかづき/森 絵都

『カラフル』の作者、青春小説の書き手と云うイメージがあったので、教育に情熱を傾ける1人の女性の戦後から現在にかけて、さらにその後をこつこつと書き綴った本作のボリュームに大層びっくり。こんな作品を書いてしまうとは。

塾経営と云う珍しい題材に、丁度姪っ子が塾通いをしているのでとても興味深く読んだ。

戦中の教育に怒りを抱く主人公は、片腕となるパートナーを見出し、戦後まだ珍しい塾経営に乗り出した。高度成長期の追い風に乗り次々と生徒を獲得して塾の規模を拡大。一世を風靡するも、少子化のあおりを受け、一転規模の縮小を迫られることになる。

思想の違いによる夫(パートナー)との別離や、3人の娘達とのぎくしゃくした関係を経て、良かれ悪しかれ『子供達の為の教育』をただひたすら考えて彼女は進み続ける。そして物語は彼女の死後、その孫の世代にまで書き進んでいく。

これは…著者の代表作になる予感。

★★★★★

陸王/池井戸 潤
池井戸 潤
集英社
(2016-07-08)

100年の歴史を有する足袋製造会社"こはぜ屋"の社長が、先細りの経営に危機感を抱き新規事業に乗り出そうと考える。

彼が考え付いたのはランニングシューズ。

足袋製造のノウハウを活かし、軽くて足に良いシューズを作り出そうとプロジェクトを立ち上げるものの、靴底の素材探しや資金の調達、大手メーカーの妨害等難問が立ち塞がる。

なんと云うか…面白いんだけど、町の中小企業の社長が仲間達と立ち上がって夢を叶える、と云うパターンが続きすぎて少々食傷気味。起承転結がはっきりしていて読みやすいし面白いんだけど、悪役(ライバルメーカー)が悪役っぽかったり苦境を助けてくれる人物が現れたり、予定調和で筋書き通りに話が進んでいくので意外性がない。あまり本を読まない人にはオススメだけど、自分はもうちょっと驚きが欲しかったなあ。

★★★★☆

コンビニ人間/村田 沙耶香
村田 沙耶香
文藝春秋
(2016-07-27)

芥川賞受賞作。

コンビニでバイトを続ける30代独身女性が主人公で、著者もまたコンビニで働いている、と云う事前情報を得た上で読んだ。

当初、『真っ当な人間は正社員として働くものだ。結婚して子供を産むのが正常』と云う世間に、『バイト、独身、子供無し』の人間が抗う話なのだと思った。バブルが弾けてン十年。いったん正社員のレールから外れるとなかなか正社員になれないご時世、レールから外れてしまった人間がたまたまレールに乗ったままでいる人間に抵抗する物語と思ってたところが、読み出してすぐに想像してたのと違う筋なのに気付いて正直戸惑った。

普通と異常の差が何なのかを描く作品であったのは事実だが、歩む人生以前に、主人公の女性そのものがおかしい。有体に云えば共感能力が著しく欠けており、妹や親に指摘されて自分が『普通ではない』ことを知りはしても理解出来ない。

コンビニで働く30代独身女性が主人公、と云うより、共感能力が著しく欠けた精神的に問題のある女性(故にコンビニで働くのがやっとで結婚も出来ない)が主人公と云うのが正しい。こんな作品でも芥川賞に選ばれるんだと意外な感じがしたし、この作品を芥川賞作品だから読むべきと子供に勧めるのは難しいなあと思う。

面白いんだけど…コンビニバイトを辞めてからの壊れぶりは、かなりサスペンス色が強くてちょっと怖いくらい。

★★★★☆

ミスター・メルセデス 上・下/スティーヴン・キング

スティーヴン・キング初の推理もの。

どんなものだろうと思いつつ読んだが、キングはキングだった。不思議な現象を描いたとしても、執拗な迄に日常を丹念に書き綴るスタイルには元々サスペンス的な要素があるので、初めてのジャンルと云っても違和感がない。つまり面白い。

定年退職後、生きがいを失い毎日家にこもって過ごしている元刑事の元に、1通の手紙が届く。その送り主は、現役時代に検挙出来ないままに終わった事件、盗んだメルセデスで見ず知らずの人々をひき殺した犯人だと自称。経験でこの手紙が本物であると確信した彼は、捕まえるチャンスだと行動を開始する。

追う側と追われる側の両サイドから交互に描いており、どちらの側を読んでも面白い。キング作品は時に血も涙もない結末を迎えることがあるが、本作はかなり穏やかな方。ちゃんとハッピー・エンドを迎えて安心した。犬がなんともなくて良かった(個人的に)。

定年退職した刑事、庭仕事を頼んでいる縁から友人となった黒人の男子高校生、依頼人の従妹である40代女性の組み合わせが良い。年齢も立場も全く違うのに、気持ちが通じ合い、事件の後は良き友として付き合い始める。

この作品、後書きによるとシリーズ化したそうな。

多分キングも書いててこの3人が気に入ったんだろうな。これは続きがものすごく見たい。

★★★★★

バラカ/桐野 夏生
桐野 夏生
集英社
(2016-02-26)

東北の震災で原発が全て損傷したifの世界で、バラカと呼ばれる少女を巡って人々の思惑や駆け引きが交差する話が本作。

当初、脱原発や災害をテーマにした何らかのテーマ性のある作品かと思ったら、そうは問屋が卸さない。ifの世界は単なる舞台に過ぎず、相変わらず救いのない話が上手いなあと思う。

登場人物のほぼ全てが愚かな振る舞いで道を踏み外す。

母親はドバイで恋人と出奔するものの相手に殺され、娘を売られる。

未婚のキャリア女性は子供を望んでドバイで大金で手に入れるものの、懐かない子供を持て余し、再会した学生時代の知り合いと不幸な結婚をしてしまう。

そうして悪意を持ったその結婚相手は、とある老人に引き取られた少女・薔薇香のその後の人生にも関わっていく。

幼い子供が親元から離れ流転していく様を年月を経て怒涛のように描いてくので、一気に読める反面、人物達が時代と場所を経て繋がっていくので、そんな偶然あるのか?と思わなくもない。

最後は驚きの40年後。ある意味ハッピーエンドと云えなくもないが…どうせだったら「そして何年後」ではなく最後まで書き切ってくれても良かったな。

★★★★☆

坂の途中の家/角田 光代
角田光代
朝日新聞出版
(2016-01-07)

今を去ることン十年。陪審員制度なるものが開始されると聞いた時、大変なことになったと思ったものだ。

ふたを開けてみると身の回りで選ばれたと云う話は聞かないし、自分あてに連絡がきたこともない。

なんとなく頭の片隅にあるものの、ほとんどあってなきがごとく思っていた。

その陪審員に選ばれた主婦(実際には補欠)が、実際に裁判所に出向き事件に関わっていく様子を描いたのが本作。

だがこの本は、事件の真実を突き止めたり採決を下りしたりするのがメインではない。2歳児のいる主婦が、同世代の母親が赤ん坊を風呂場で溺死させた事件に関わることで何を考えどう思うかを克明に綴っており、新たな証人の発言を聞く度に感情が揺すぶられ、記憶が揺り起こされ、平穏なこれまでの生活さえ不穏な気配が漂い始める。その過程が、読んでいてたまらなく重い。なのに先が気になってたまらず、鬱々しながら最後まで読んだ。

云えることは、人は自分以外の人間(場合によっては自分すらも)の考えていることを知ることは出来ないのだと云うこと。

確固たる事実は溺死させられた赤ん坊がいること。

だが何故母親が我が子を溺死させてしまったのかと云うと、夫、夫側の母、妻側の母、友人、それぞれの視点で捉え方が違う。そして他人の前で真実を語ろうとする時、人は我が身や大切な人を守ろうと真実を歪めて伝えようともする。

1つの事実が見方を変えると全く違う様相を見せることを、本作ではこれでもかとばかりに綴っていて、読んでいると、なんだか自分の今の生活でさえ、実は裏があるんじゃないかって気がしてくる。

現実って怖い。

★★★★☆